プロダクションノートプロダクションノート

沖縄

東京編アップの翌日から続々とスタッフ・キャストは沖縄へと移動。 沖縄県最北端に位置する人口1400人ほどの小さな離島・伊平屋島(いへやじま)が、 泉や辰哉らの暮らす波留間島の設定となる。
8月29日、沖縄編クランクイン。 オーディションで泉役に選ばれた広瀬すず。 東京・沖縄での一般オーディションで1200人の中から辰哉役に選ばれた16歳(撮影当時)の高校生、新人・佐久本宝。 そして「この役をやれるのは彼しかいない」と李監督からの熱烈なオファーを受けた、田中役の森山未來。 若い二人があまりにも重い感情を背負う濃密なパートだ。 初日から李監督は広瀬・佐久本とじっくり話し合いながら20回、30回と同じ芝居を続けていく。 「それっぽい」芝居では決してOKなど出ない。 なんと撮影初日は一度もカメラを回さなかった。 「そこにいるのが泉でない以上は、丸一日潰してでも泉を見つけていかなきゃいけない」と李監督は語る。リアルに“役を生きる”まで妥協を許さない李演出の象徴的な一コマだ。広瀬も佐久本もその厳しさに必死で食らいついていった。
伊平屋島での撮影の拠点となったのは『民宿風ホテルにしえ』。 辰哉が家族と共に暮らし営んでいる民宿「さんご」の設定で、のちに田中が住みこみでアルバイトをはじめる場所だ。 長く伸ばした髪と髭。ワイルドな風貌の森山未來は、完璧に役の田中になりきっている。 彼はクライクイン前からひとり無人島に乗りこみ、徹底した役作りに専念していたのだ。 ホテルでは田中と辰哉の交流がメインとなる。 森山に胸を借り、佐久本が芝居に辰哉としての感情を込める。 辰哉が田中に心の内を初めて話すシーンでは、怒りと悲しみが高ぶって思わず涙が溢れた。 そんな佐久本のナチュラルな気持ちの入り方に、スタッフが感動する場面も多く見られた。 期間中は地元の方々の手厚い協力を受けつつ、約10日間のロケが終了した。
沖縄での撮影は天候に左右される。 進行は晴れバージョンと曇りバージョンの2パターンを用意していたが、スコールのような通り雨も多く、違ったスケジュールを余儀なくされることもあった。 「『監督の怒りはなんですか?』って訊かれたら、沖縄の天気って言う!」と冗談を飛ばすほど、李監督も天候との闘いには苦戦を強いられたようだ。

沖縄県島尻郡渡嘉敷村(しまじりぐんとかしきそん)に属する離島・前島。 この面積1.6キロ平方メートルほどの小さな無人島が、田中が暮らす「星島」の設定となる。 もちろん観光地ではないので定期便はなく、撮影隊専用に船をチャーターして移動する。 水道、ガス、電気などのライフラインは一切ない。 ちなみに野生のヤギがたくさん生息しており、荷物の紙コップが食べられてしまったことも……!
この島での撮影が始まったのは9月7日。 あらかじめ飲み水の用意や簡易トイレ、巨大テントなど、50人以上のスタッフが真夏の撮影に耐えられる環境を整備した。 メインとなる場所は、田中が暮らす廃墟。 もともとそこにあった廃墟を美術部が改造、増設してオープンセット形式の舞台を作り上げた。そこに森山は丸太を運んできてテーブルにするなど、まるで本当に自分の家を作るように自分でセッティングを加える。 「とにかく素敵なロケーション。夜の星空とか海とか、この場所にきっと田中も癒されていただろうし。でも同時に最果ての無人島にいるという危険や恐怖も感じている」と森山は島での宿泊体験を語る。
廃墟では田中と泉の出会いのシーンから撮影がスタート。 沖縄の上空を飛ぶジェット機の音と共に田中が登場した時、逆光シルエットになるように、朝一番の太陽狙いで限られた時間で撮影する。 ここで廃墟の中に初めて足を踏み入れた泉が尻もちをつくところは、リハーサルの時から広瀬が苦戦していたシーン。自然に見えるように何度も何度も繰り返す。 森山と広瀬、そして佐久本も交えた一連の芝居はカット数も多く、結局二日に分けて撮影した。 9月11日、前島ロケはいったん終了。 那覇での撮影が終わってから、再びここに戻ってくることになる。

泉と辰哉がデートに出かけ、やがて悲痛な事件に直面する重要なシークエンスである。 9月12日、観光地としても有名な繁華街・国際通りで撮影をスタート。 まずは毎週日曜日の12時から歩行者天国となるこの通りで、エキストラ150人が参加する辺野古新基地建設反対のデモのシーンが撮られた。 そのデモ隊の横の歩道を並行して歩く泉と辰哉。 観光客の多い道でカメラを回していても、ロングヘアで前髪をあげた、これまでのパブリックイメージとは違う広瀬の姿はほとんど気づかれない。
やがてアーケード街に入り、二人は偶然田中に出会う。 三人が居酒屋で食事をするシーンは、商店街の中にある沖縄料理店『鳩間島』で撮影。 未成年の佐久本はこの日の芝居のため、周りの大人の酔っ払い方を観察して研究してきたようだ。酔っ払った辰哉がお酒をこぼしてしまうシーンは予定外だったが、三人はアドリブで芝居を続け、本編にはこのハプニングカットがそのまま使われている。
国際通りやアーケード街からほど近い『希望ヶ丘公園』にて、悲痛な事件の撮影が行われた。 夕方の明るいうちからリハーサルをし、大まかな芝居の流れを確認してナイターのセッティングに入る。 その間、広瀬はいつも通り笑顔を絶やさず、公園でストレッチをしながら明るく振る舞っていたが、それは彼女なりに緊張を振り払おうとしていたのかもしれない。
このシーンでは、ほとんど段取りは行わずに本番の撮影に入った。 撮影は二晩に分けて行われた。 二日目は泉を助けられず無力感に苛まれる辰哉と、現場を上から見下ろしていた田中を撮影。 この過酷な撮影を終えて、広瀬はこう語った。 「正直、現場に入るまで全然お芝居のイメージができませんでした。でも監督が本番前に『すべてを壊されて心が切り裂かれる――本当に感情が全部ぶち壊されるんだ』とアドバイスをくれて。その監督の最初のひと言で入っていけたかなと思います。」 大変な山場をやり切った彼女は、その晩ぐっすり眠れたそうだ。

那覇での撮影を終えると、残り四日間は再び前島へ。 森山と佐久本による沖縄編のクライマックスに向かう大事なラストスパートである。 このシーンの撮影に向けて、森山と佐久本、そして李監督は、三人だけで島に宿泊し一晩かけて話し合ったそうだ。 本番の芝居は、台本からも、前日の段取りからも大きく変わり、想像を遥かに超えるエモーショナルな森山と佐久本の芝居が生まれた。 ほとんどテイクを繰り返すことはなく、まるで二人のドキュメンタリーを切り撮っているような会心のシーンとなった。
続いて、泉が海に向かって叫ぶシーン。 これまで沖縄で粘りに粘った撮影のため、東京に帰る飛行機の出発まで残された時間は一時間を切っていた。 それでも現場のテンションは揺るがない。美しい海の中へざんざんと入っていく広瀬は、「体に一本太い線が入った感じ。ガシッとね」という李監督の助言に応え、言葉にできない、やりきれぬ気持ちすべてをこの魂の叫びの中に表した。
こうして9月20日、スケジュールの変動が激しかった沖縄編クランクアップ。 厳しい試練をくぐり抜けた広瀬も佐久本も、今では李監督への信頼と感謝の気持ちでいっぱいだ。 解放された嬉しさよりも、撮影が終わって寂しいという気持ちのほうが強いと口にしたほどだった。